ナガサキアゲハ (メス); 鹿児島本土; 有尾型・夏型 g


薩摩半島の南端、開聞岳かいもんだけ)の麓で2003年に採集。クサギで吸蜜していた個体。

a-fまで示したナガサキアゲハのどれとも異なることが分かると思います。これは有尾型(ゆうびがた)といって、ナガサキアゲハのメスでだけ見られる表現型です(この標本は翅の下が破損していて肝心の尾が無いですが・・・)。私はこれまでに、この一個体しかお目にかかったことがありません。ここで示した写真では分かりづらいのですが、この有尾型の腹の側面は黄色をしていてよく目立ちます。特徴的な翅も飛んでいるとモンキアゲハのように見えてしまいますが、腹部の黄色で大きな違和感を感じられるはずです。



本来、東南アジアのナガサキアゲハは有尾型を発現させる遺伝子をもっています(日本のものは無尾型)。有尾型は交配実験によって、優性遺伝によって導かれるものと判明しているようですが、ならばなぜこの型が日本ではびこらないのか。はびこらないどころが、極めて稀ですからその理由が知りたい。優性なのに、優先型にならないのだから、日本にある何かが繁殖を抑えているのでしょう。優性なのにはびこらないことから、この型のナガサキアゲハが採れたときは、それ以前に台風の風などで日本に飛来したのだということを推測することもできますね。奄美ではしばしば新鮮な有尾型が採集されます(新鮮な個体も採れる)が、それはつまり、有尾型の遺伝情報を持った個体は夏の間にこちらのナガサキアゲハと交わって繁殖(世代交代)できるが、その子孫達は結局、冬を越せずに絶えてしまうということでしょうか。



虫屋でない人がこの文章を読んで、ガッテンしてもらえるか自信がありませんが、こういう現象もあるんです。
日本以南では、ナガサキアゲハは有尾型以外にも色んな型を有するので面白いです。そういえばインドネシアでも生態写真を撮ってたのでまた紹介します。


タグ:ナガサキアゲハ 有尾型 メス ♀ 標本



おわり